森田療法が効果ある神経症の種類(詳細)

強迫神経症、不安神経症および普通神経症の3種類は森田正馬が使用した森田療法の呼称です。しかし最近の医療機関等では神経症の名称も世界保健機関(WHO)のICD(国際疾病分類)やアメリカ精神医学会(APA)のDSM(精神障害の診断・統計マニュアル)の普及と共に大きく変わってきています。
従って医療機関等で医師からICDやDSMの一般診断名を告げられた場合、生活の発見会が使用している神経症の呼称と対比できるよう詳しい相関表を巻末に添付しましたので参考にして下さい。

日本人にもっとも多い対人恐怖症は次のようなものです。

  • 対人恐怖症

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    次の朝礼で3分間スピーチをしなければならないことになったら誰だって緊張するし、なんとか逃げる手はないかと考えるものです。前の晩はなかなか寝付かれない人もいるでしょう。
    また、結婚披露パ-ティなどのスピーチで、あがってしまったり、声や脚などが震えて、思っていることの半分も話せなかったという経験をされたかたも多いと思います。
    神経質で人前で話すのが苦手な人は、そういう場面を想像しただけで恐怖を感じます。さらにこんなことで恐怖を感じる自分を情けなく思い、いつどこに出ても常に堂々としていなければならないと考えてしまいます。
    また、他人は大勢の前でも平気で話をしているように見えるので、自分だけが気の弱い、ダメ人間だと劣等感を抱きます。他の人もたいていは、あがっても、声や足が震えても受け止めて話をしているのだということが、悩みの最中にいる人にはわかりません。自己中心的で、自分にばかり注意が向いているから、誰もが感じる気持だということが分からないのです。

    対人恐怖症に悩む人は、みんなによく思われたい、みんなから認められたいという気持ちが人一倍強いのです。そして、弱点があってはよく思われない、認めてもらえないという気持ちで一杯なのです。また、本人も弱い自分を認められないし、そういう自分が嫌で嫌でしかたがありません。
    話し方教室に通ったり、さまざまな鍛錬に励んだりして、弱い自分を克服し、堂々とした人間になろうと努力する人もいます。ところが努力すればするほど、ひどくあがっていたり震えている自分に気がつくようになり、対人恐怖症の泥沼に陥っていきます。他人の目を意識しながら生活をしているのは、誰だって同じことです。ただ、あまりにそれにとらわれると、対人 恐怖症になるのです。

    日本には対人恐怖症の人が多く、神経症の約30%を締めると言われています。ピラミッド形社会のなかで、人間関係に配慮して生きていかざるを得ないからでしょう。敬語について考えてみただけでも、いかに対人的な配慮がなされているかが分かります。尊敬語、謙譲語、丁寧語と大変複雑で、正しく使いこなすのは殆どの人にとって至難の業でしょう。
    日本人は他人の顔色を窺いながら、また、所属する組織のなかでどのように評価されるかを判断基準にして行動し、個人よりも組織を重視して生きてきました。他人への配慮を生きる術としてきた日本人は、誰もが神経質性格の傾向をもっており、これが対人恐怖症の多い理由と言われています。

    森田博士は多くの神経症の症例についてその治療法に言及していますが、中でも悩む人が多い睡眠障害と心臓神経症の治療について博士の言葉で紹介します。

  • 不安神経症
    (不安障害あるいはパニック障害)

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    不安発作とそれに対する予期恐怖が主な症状で、文字どおり精神的な不安が前面に出てくる神経症です。例えば心臓の脈拍が早くなり、今にも死にそうな恐怖感に襲われ、あわててパニック状態となり、救急車を呼んで病院に担ぎこまれますが、 病院に着くころには落ち着いてきて、医師が診察してもどこも異常がなく帰宅します。しかしまた同じような発作が起きるのではないかと予期恐怖が起こり、一人では外出が困難になってしまいます。特に電車や飛行機など発作が起こっても助けを呼ぶのが困難な乗り物の中で発作を起こすことが多く、乗り物に乗るのが困難な乗り物恐怖が代表的な症状です。
    また呼吸困難発作に襲われ、外出が出来なくなる症状も心臓の場合と同様な乗り物恐怖です。この不安神経症を起こすような人は、日頃から健康に自信があり、社交的で活動的な人に多い傾向があるようです。
    不安神経症の種類にはほかにも、高所恐怖、閉所恐怖、先端恐怖、動物恐怖などがあります。

  • 睡眠障害と夢

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    何か心配ごととか感動とか、心身過労とか、なにかの病後とかに、人は当然不眠や睡眠障害を起こすことがありがちである。普通の人はこれをその時だけの苦痛として、何とも深く意に留めないから数日ののちには平常に復する。それなのに神経質は何でもかでも直ちにこれを病的と考える。不眠の苦痛から早く逃れようとする。
    安眠の工夫に精神を傾注する。もしこれが人間の睡眠の状況、自分の素質または持ち前としての眠りの状況を研究する態度にでもなれば、上等であるけれども、ただ一も二もなくこれを病的と決めてしまって、いたずらに恐れふためくのである。

    そもそも睡眠とか忘却とかいうものは、そのことが念頭から離れ、そのことに対して、何も思わないようになってのことであるということは、誰でもでも知っていることである。
    眠ろう忘れよう、思わないようにしようと、様々に工夫し努力するときに、どうして眠ることができ、あるいは忘れることができようか。
    神経質は眠ろうとする。いよいよ眼が醒める。不安になる。ますます眠れない。ついには身体の違和が起こる。逆上する、熱感、発汗、その他種々の症状が付帯してくる。また、たとえ眠っても安眠ができない、夢が多いという。普通の人は、安眠も夢も全く無頓着であるから、そんなことはどうでもよい。神経質は恐れをもってこれを詳細に観察するから、ますますこのことがわかるようになる。およそ我々の睡眠は、臥辱(がじょく/床につくこと)時間を 7 時間として、熟睡は初めの寝つきの1、2時間と朝起前の30分くらいのものである。その間の時間はただウトウトと半睡の状態である。子供でさえもちょっと呼べば返事をするのである。

    普通の人はこの半睡の時間も何の気なしに横たわっているから、眠っているのと同じ気持ちである。なのに神経質で夜中覚醒して眠れないというのは、眠れないという恐れと、眠りたいという努力のために精神活動が起こって、そのために意識が明瞭になってくるのである。これらはどっちにしてもわずかの差別であるから、身体にさわるということはない。
    これが神経質の不眠が数年にわたってしかも身体に衰弱の起こらない理由である。

  • 20年の心臓病が一朝にして治る

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    最近には40歳の某料理店の主婦で、19歳のとき、姉が心臓麻痺で急死したことから、常に心悸亢進発作に悩まされるようになった患者があった。それ以来21年間、患者は全く外出することができず、家にあっても、その家の主人か番頭かがつねに家にいなければ発作をおこすというふうであった。従来、患者が多くの知名の医師にかかってきたのは想像しやすいことである。しかもこれに対して薬物はもとより電気療法とか水治療法とか気合術とかをやり尽して何故に治らないのか、何故に立派な学者たちが、今まで21年間、その患者の病理に気づかなかったのであろうか。それはいたずらに心臓機能という物質的方面にのみとらわれているからである。

    その病理はあまり簡単であっけないことである。経験のない人には虚言のように思われるかも知れない。それはたんなる恐怖である。恐れ、心配、驚きということから胸騒ぎを起こすものである。私はこれを一朝にして治すことができる。私ははじめその患者を往診したのであるが、早速、次の日曜には、私の家へ患者が 1 人で来るように約束したのである。患者は実に21年目の外出である。患者は外出すれば必ずその家の玄関まで来て発作が起きるということである。すなわち私は、その発作の状態を一度私に見せてもらいたいというのである。次の日曜に患者は2里ばかりの途を一人で自動車でやって来た。その日の朝、家を出る少し前から軽い発作が起こったが、私の家に来て午前から夕方まで留めおいて、その発作を起こさせるように追い立てたけれども、思うとおりに少しも発作が起こって来ない。わたしは予め、その患者が私の家に来ればけっして発作が起こらないことを知っている。患者はまたつぎの日曜には、朝から今度は一人、電車で私の家に来るように約束した。

    こんなきわめて平凡、無邪気な方法で、わたしはこれを治すことができる。その心理はいまさらくどく説明しなくとも、理解できることである。これは頓智でもなければ奇法でもない。
    何故に学者はこれに気がつかないのか、その学問があまりに人生の常識と実際とを飛び離れた机上論になっているからである。つまり理屈にとらわれているからである。

    神経症の治療として大きなポイントとなる往生について森田博士は次のように述べています。

  • すべからく往生せよ

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    私は神経質ないし強迫観念治療の一手段として、患者の苦痛とする事柄に対し、積極的に注意を固定、集注させる方法をとることがある。それはわれわれの意識の目的性の自然にもかない、外境に調和する契機ともなるからである。たとえば耳鳴り患者には、明け暮れたえず自分の耳鳴りに精神を集注させることによって、数週間で多年の耳鳴りを治した例もある。
    また鼻尖恐怖の患者には、読書にも仕事にも、つねにその鼻に注意を集注させて心を退転させないようにし、これによって僅か一週間余で全治したのである

    心悸亢進発作、死の不安等の患者には、自ら進んでその発作を起こすような境遇において、その発作を起こさせ、その発作の状況を自ら見つめ、精細に観察させることによってこれを治し、けっして再発しないように全治させることができる。私が実験したこんな例ははなはだ多数にのぼっている。勇気ある患者は、十年の心悸亢進発作が、一回の私の診察によって全治し、思いきってこれのできない人は、私の監視の下にこれをやり、怯懦(きょうだ)で聞き分けのない人は、入院療法 30 日以内で全治することができる。その他種々の強迫観念において多くの場合に、この心理を応用することができるのである。

    禅に「勇猛の衆生は成仏一念にあり」ということがある。勇猛な人はそのままただちに大悟し解脱するということであろう。心悸亢進発作の患者が私の一言によって全治するのは、あるいはこの一念成仏の境涯ではあるまいか。勇猛心とは何か、寝転んでいて無暗に気を張る工夫をしたり、力こぶを入れたり、平安無事にいて、南無阿弥陀仏を唱えて、独り勝手に安心立命のつもりになり、丹田にウンウンと力を入れてみたりすることではなかろうと思う。木の梢に登れば、自ら精神は緊張する。木から落ちれば、自ら丹田に力がはいる。ブリキ屋の音にも、船に乗るにも、戦場に出るにも、高熱病のときにも、うるさい、気持ちが悪い、恐ろしい、苦しい、そのままにありながら、各々その置かれた現在自己の境涯に、従順に無反抗で、各々自己の自然機能を発揮していくということが、あるいは勇猛心というべきものではあるまいか。

    普通、人が閉口した、とても力が及ばない、自分を投げ出すより仕方がない、とかいう場合に、「往生した」「成仏した」とかいうことがあるが、誰がいいはじめた言葉であろう。神経質または強迫観念の患者達よ、君達はすべからく往生しては如何。

  • 森田療法が効果をあげ得る主な疾患*1

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    森田神経症と一般に医療機関等で使用される診断名との比較相関表

    森田神経症*2
    の分類
    一般に医療機関等で使用される診断名 備考
    神経症(神経質) 不安症・強迫症・身体症状症および関連症群
    不安神経症
    (発作性神経症)
    不安症/不安障害群 限局性恐怖症 高所恐怖、閉所恐怖、先端恐怖、動物恐怖、雷恐怖、注射恐怖、血液恐怖など
    パニック症/
    パニック障害
    繰り返される予期しないパニック発作(動悸・呼吸困難・めまい・死の恐怖などを伴う)
    広場恐怖症 乗り物や劇場、美容院や歯科など閉鎖空間や逃げ出せない状況を恐れ回避するもの
    全般不安症/
    全般性不安障害
    仕事・家族・経済・健康などへの過度の不安や心配、結果としての心身の不調など
    強迫神経症
    (強迫観念症)
    社交不安症/社交不安障害*3 対人恐怖症(赤面恐怖、視線恐怖、表情恐怖など)や社交不安(人との会話、人前での発言・スピーチ、権威ある人との面談・会話などを恐れるなど)
    強迫症と関連症群 強迫症/強迫性障害 確認恐怖、不潔恐怖、縁起恐怖など。通常、繰り返し浮かぶ不安な考え・イメージ・衝動(強迫観念)とそれらを打ち消す行為(強迫行為)から成り立つ
    醜形恐怖症 顔や全身の些細な欠点(ない場合も多い)を苦にし人前を避け生活に支障を来すもの
    ため込み症 物を捨てたり手放すことができずため込み、生活に支障を来すもので強迫症に因るもの
    抜毛症/
    皮膚むしり症
    頭髪など体毛を抜いてしまう抜毛症、皮膚をかきむしって止められない皮膚むしり症
    普通神経症
    (普通神経質)
    身体症状症と関連症群 身体症状症 身体化障害(身体因が見当たらないが、慢性的な胃腸症状・性的症状・神経症状などの身体症状を示し生活に支障を来すもの) 疼痛性障害(慢性疼痛、心因性疼痛)
    病気不安症 心気症・心気障害、あるいは疾病恐怖(エイズ・癌など、重篤な病気にかかっているのでは?という過剰な心配ととらわれ)
    医学的疾患に心理的
    要因が影響しているもの
    例えば、糖尿病・心疾患・偏頭痛など。ストレスによる消化性潰瘍・過敏性腸症候群・慢性胃炎などの消化器症状、心臓血管系の症状、アレルギーや更年期症状など
    抑うつ障害群 うつ病/大うつ病性障害 持続する憂うつ・気分の落ち込みなど抑うつ気分、考え・意欲・睡眠・食欲などの変調
    持続性抑うつ障害
    (気分変調症)
    抑うつ神経症。大うつ病より軽度ながら慢性的抑うつ状態が長期に持続するもの
    双極性障害および関連障害群 (軽)躁病エピソードを伴うもの。森田療法が有効なのは軽度双極性障害のうつ病期

    作成にあたっては、中村敬著(2018)『よくわかる森田療法 心の自然治癒力を高める』主婦の友社、日本精神神経学会監修・高. 橋三郎ほか監訳(2014)『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』医学書院、森則夫他編著(2015) 『臨床家のための DSM-5虎の巻』日本評論社などを参考にしました。

    森田神経症とは、森田療法が特に有効と考えられている、一定の性格特徴(「神経質性格」)を持つ人が「とらわれる」ことを通して陥る神経症のこと。
    従って、本表に記載されている診断名や症状を持つ疾患に限らず、「神経質性格」をベースに「とらわれる」という構造を持つものであれば、森田療法が有効である可能性がある。

    「社交不安症/社交不安障害」は、医療機関が一般に依拠する診断基準では「不安症/不安障害群」に入るが、本表では、従来の森田療法の「対人恐怖症」の分類に従って強迫神経症(強迫観念症)に含めている。

    ※残念ながら症状が重く日常生活ができない方、統合失調症、双極性気分障害、パーソナリティ障害、発達障害、てんかんの方には森田理論学習は有効ではありません。
    医師にご相談下さい。

    ※医師からそううつ病、うつ病という診断を受けた方の参加については、適否を一度医師にご相談ください。